限られた面積で“広く見せる”視覚効果|不動産店舗デザイン事例

限られた面積の中で、どれだけ“広く見せる”ことができるか。
それは店舗デザインにおいて、業種を問わず普遍的なテーマのひとつです。特に不動産店舗では、相談や打ち合わせといった「人と人が向き合う空間」が中心となるため、心理的な開放感をどうつくるかが鍵になります。
これまで数多くの店舗設計を手がけてきましたが、物理的な面積を変えずに“広く感じさせる”ための工夫は、単なるデザインテクニックではなく「体験設計」だと考えています。
視覚的な“抜け”をつくる
まず意識するのは、視線の抜け感です。
壁やパーテーションを安易に設けてしまうと、視覚が遮られ、圧迫感が生まれます。そこで、仕切りが必要な場合は腰壁やガラス間仕切りを用いて「視線の抜け」を確保します。視界が奥へと通ることで、面積以上の広がりを感じるのです。
また、家具や什器の高さを揃えることも効果的です。高さのバラつきは空間のノイズとなり、狭さを助長します。不必要に高くしないこともポイントです。
統一感をもたせることで、空間が整い、自然な奥行きを演出できます。
光と素材の“リズム”で広がりを生む
照明は、ただ明るくすれば良いというものではありません。
特に不動産店舗のように打ち合わせスペースが中心となる場所では、照度を細かくコントロールしながら、光の「グラデーション」をつくります。
入口付近はやや明るく、視線が向くフォーカルポイントには壁面照度を確保し「見せ場をつくる」ことで空間の奥行き感が出ます。
素材の選定にも、光との呼応を意識します。
木材や左官材のようなマットな質感は安心感を与え、ガラスや金属の反射は空間の軽さを補います。これらを組み合わせることで、光がやわらかく反射し、空間全体が伸びやかに呼吸するように感じられます。


配色がつくる“心理的な広さ”
色には空間の印象を大きく左右する力があります。
たとえば、天井を壁より明るく塗ることで高さを強調し、グラデーションをかけるように床へとトーンを落とすと、重心が安定しながらも開放感が生まれます。
また、ホワイトやグレージュといった明度の高い色は、光の反射率が高く、面積をより広く見せてくれます。
一方で、すべてを明るいトーンに統一してしまうと、のっぺりとした印象になりやすい。
そこで、受付カウンターや壁面の一部に素材感のある木や石をアクセントとして入れると、空間に奥行きと温度が生まれます。視覚的な「コントラスト」が、心理的な心地よさのバランスをとるポイントです。


動線設計と“余白”のバランス
限られた面積の中で、いかに動きやすい導線を確保するか。
これはレイアウトの問題であると同時に、「オペレーション」の設計でもあります。
椅子やテーブルをただ配置するのではなく、人が座ってから立ち上がり、移動するまでの“行動のリズム”を想定して空間をつくる。わずか数センチのゆとりが、使いやすさと広さの両立を叶えます。
また、ディスプレイやサインの配置にも意図を持たせることで、自然な視線誘導を生み出すことができます。視線が流れる空間は、人が無意識に「広い」と感じるものです。
事例に見る、Rootforの設計思想
Rootforが手がけた不動産店舗の事例では、約6坪という限られた空間を、視覚効果によって開放的に見せるデザインを実現しました。
具体的には、広く見える白をベースに視線が集まるポイントには異なる素材感を配し、空間のバランスを取る。ミラーや床材の貼り方の工夫により実際以上の視覚的な広がりをつくり、そして光のグラデーションによる柔らかな立体感を出す。この3つの要素が重なり合うことで、物理的な制約を感じさせない“居心地の良さ”が生まれました。
スケルトンの状態を知っているクライアントからは「思ったより広く感じる」「落ち着いて相談できる」といった声をいただきました。
これは、単に空間を美しく整えたというより、“心理的な快適さ”を設計した結果だと感じています。



まとめ:面積を超える“体験”をデザインする
限られた面積の中に、どれだけ豊かな体験を設計できるか。
Rootforでは、視覚効果や動線設計、素材の選定を通して「人の感じ方」そのものをデザインします。
数字で測れない心地よさを、空間の中にどう生み出すか──。
それは、面積を広げることよりもずっと大切なことだと考えています。
不動産店舗や小規模スペースの設計をお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。
WORKS(不動産店舗の店舗デザイン実績)/大成総合不動産大宮門街店
投稿者プロフィール

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ドイツの照明デザイナーであるインゴ・マウラー氏に憧れ、
インテリアデザインの専門学校へ進学。
日本全国の名建築・インテリアデザインを1年間見て廻る旅の中で、
五感で人を感動させることができる空間デザインを仕事とすることを決意。
アトリエ系デザイン事務所・広告制作会社・大手内装デザイン会社を経て、
2019年にRootforを設立。
幅広い業種のブランディング・デザインをお手伝いしてきた実績をもとに、
中小零細企業専門のクリエイティブパートナーとして、日々活動しています。
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